
結局、売買のIT重説っていつから始まるの?
売買の重説は、令和3年4月から本格運用が始まっています。
売買についてはこれまで社会実験中でしたが、実験を終え、目立ったトラブルがなかったことから本格運用へと至りました。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、非対面・非接触型のIT重説の推進がさらに後押しされる形となりました。
さらに、令和4年5月18日からは法改正施行により、電磁的方法による書面取引が可能となり、今後ますます活発化していくと思われます。
ここでは、今さら聞けない、IT重説とはそもそも何なのか?実際、いつから企業は運用するのか?徹底解説してみたいと思います。
国土交通省が発表しているマニュアルから、ポイントを絞ってわかりやすく解説します。

不動産業界で働きながら、不動産専門ブログを運営しているOTOMO(@zebrakun24)が解説します!
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目次
IT重説とは?

そもそもIT重説の定義がよく分からないんですが、、
IT重説は、テレビ会議等のITを活用して行う重要事項説明のことを言います。
重要事項説明は、契約を行う前にする必要があり、これまでは紙ベースで対面で行われてきました。
パソコンやテレビ、タブレット端末等を利用して、対面と同様に説明を受けられることを目的としたものです。

売買取引についての社会実験では、2,000 件を超える IT 重説が実施されました。
結果として、トラブルが「なかった」と答えた割合は約90%、あったと答えた方は10%(ネットの接続不良など)と目立ったトラブルも発生しませんでした。
そのことから、令和 3 年 1 月に実施された検討会において、本格運用へ移行することが適当とされました。
そして、令和4年5月18日には改正法の施行により、電子書面でのやりとりができるようになりました。

もう社会実験も行われていたんですね。
IT重説のざっくりとした概要は、以下のようなものです。
- 双方向でやり取りできるIT環境において実施されること
- 重要事項説明書等を事前に送付していること(紙 or 電磁的方法)
- 説明を開始する前に重要事項説明書とIT環境を準備し、確認していること
- 宅地建物取引士が宅地建物取引士証を提示し、相手がそれを画面上で確認できること
これらは、宅建業法第35条第一項関係に記されています。
なお、ここで必ず押さえておきたい特に大切なことは以下の2点です。
1 重要事項説明書は事前に送ること(電子書面であれば、電磁的方法で)
2 画面上で宅建士証を見せる必要があること

IT重説だからと言って、宅建士証を見せなくて良い、ということはありません!実際の見せ方は後ほど解説しますね。
IT重説で必ず抑えておきたいポイントと注意点(遵守事項)

まずは、IT重説の特に重要な部分を説明します。
ここだけは必ず抑えておきたい、重要なポイント
国土交通省マニュアルによると、以下は必須とされています。
マニュアルは膨大な量なので、エッセンスを述べておきます。
各種、該当ページをつけていますので、合わせてご参照ください。
- 必ずしもIT重説を実施しなければいけないものではない(P7)
- 相手方のIT環境の聞き取り(P9)
- 電磁的提供・IT重説の、意向確認の説明事項(P10)
- 相手方から、書面や紙で承諾を得る(P10)
- 相手方が拒否する場合は、その旨の取得を得る(P11)
- 売買取引(その媒介や代理を含む。)においては、契約当事者本人であることの確認を行う必要がある(P35)
提供する重要事項説明書等の電子書面は、以下の要件を満たす必要があります。(P12)
- 説明の相手方等が出力することにより書面(紙)を作成できるものであること。
- 電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置を講じていること。
〔 35 条書面及び 37 条書面 〕
重要事項説明書等の電磁的方法による提供を行う宅建士を明示するため、作成した重要事項説明書等の電子書面には、当該宅建士の記名が必要となります。
電子書面の作成方法(P13)は、以下の通りです。
- ファイルへの記録の方式に指定は特にない
- 作成した電子書面を他のファイル形式に変換する際などの確認が必要
- 使用していた文字や表が、文字化け、文字欠けが生じていないこと
- 解像度の関係で表がぼやけてしまっていないかなどを確認
作成した電子書面は、以下のような形式で相手方に提供します。
- 電子メール等で提供
- Webページからのダウンロード形式で提供
- CD-ROMやUSBメモリ等の交付
以下を説明し、相手方の理解をもらうことが必要。
- 提供する電子書面の改変を、どのような方法で確認することができるのか
- その方法が提供時点から将来のある時点において、改変されていないかの確認のために必要な方法であること
そして、宅建業者が電磁的方法で提供した電子書面と相手方に実際に到達した電子書面の記載内容が同一であることについて確認する必要があります。

この方法には、電子証明書やタイムスタンプが有効とされています。


説明の相手方の以降が変更したり、電子書面が閲覧できないトラブルなどが発生した場合、電磁的方法による提供を中止する必要があります。

この場合、紙による交付への切り替えが可能です。
IT重説の実際の流れ

IT重説は、以下のような流れで行います。(P7)
- IT環境の確認
- 電磁的提供の承諾、IT重説の意向確認
- 電子書面を作成して、提供
- IT重説実施前の確認
- 電子書面が改変されていないかの確認方法、保存の必要性、保存方法の説明
- IT重説実施を活用した重要事項説明
順を追って解説します。
IT環境の確認
まず、必ず必要なことは双方向でやり取りできるIT環境の整備です。
どちらかに通信環境がなければ、その時点でIT重説は実現しません。
具体的なIT機器やサービスに関する仕様等は定められていませんが、IT重説で求められるやり取りが十分可能なものを用意することが必要です。
具体的な要件を表でご紹介します。
NO | 部位 | 詳細 |
---|---|---|
1 | 端末機器 | PC、タブレット、スマートフォンなど、自社がすでに利用しているものでも可。 セキュリティ対策は必要。 |
2 | 画面 | 相手側から見て、宅建士証を確認できること、図等を確認できること、ワイプで宅建士の顔が見える大きさや解像度が望ましい。つまり、PCが望ましい。 |
3 | カメラ | 宅建士側のカメラは、十分な性能(解像度等)を有することが必要。 宅建師匠や図面等を表示するため。 |
4 | マイク | お互いの音声の認識に問題がないもの |
5 | ネット回線 | 途中で止まったりせずに、スムーズに動画の送受信ができるもの。 |
なお、重要事項説明書には、宅建士と相手方の画面で同時に閲覧可能であることが必要です。
難しければ以下のような対応を依頼する必要があります。
- 電子書面を表示させる端末と、IT重説に用いる端末の2台を用意すること。
- 電子書面を出力して、書面(紙)を用意すること。
ソフトウェアについては、下記の通り大きく3分されており、いずれかのタイプが例としてあげられています。
種類 | サービスの概要 |
---|---|
インスタントメッセンジャー(メッセージングアプリ)型 | インスタントメッセンジャーの一環として、動画通信サービスが含まれているもの。利用者自身がアカウント等を取得する必要がある。 例:LINE |
テレビ会議サービス型 | テレビ会議の機能をブラウザー上等で提供するもの。利用者は必ずしもアカウントの取得は必要ではない。 例:Zoom、Microsoft teams、各不動産ポータルサイト提供サービス |
テレビ電話サービス型 | 電話の機能としてビデオ通話サービスを利用するもの。同じキャリアやサービスを利用する必要がある。 例:各キャリア提供テレビ電話サービス、Facetime |

ZOOMでも大丈夫なんですね!
他には、必須ではありませんが、下記の書類の用意も推奨されています。
- 個人情報保護法を踏まえた必要な分書類(同意書、プライバシーポリシー等の整備)
- IT重説実施に係るの同意書(録音・録画をする場合は当該同意書を含む)

個人情報を扱うため、同意書を結んでおいた方が良いでしょう。
電磁的提供の承諾、IT重説の意向確認
電子書面を提供するにあたり、承諾をもらう必要があります。
また、IT重説を行う場合、その意向を確認しておく必要があります。
法定様式や雛形はなく、署名や押印を必要とする定めもありません。
承諾を得る方法は、以下とされています。
- 紙
- 電子メールなど
- WEB上での承諾の取得など
以下、FAQもご参考ください。

電子書面を作成して、提供
電子書面の要件は、以下とされています。
- 説明の相手方等が出力することにより書面(紙)を作成できるものであること。
- 電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置を講じていること。
ファイル形式の指定は特になく、メールで送信などの方法によっても可能です。
IT重説実施前の対応
加えて、説明の相手型が契約者当事者本人であるかどうかの確認を、免許証などでも確認しておかなければなりません。
そして、重要事項説明書が相手方の手元にある状態で重要事項説明を行います。
また、必要に応じて内覧を実施します。
説明本番に入る前に改めてお互いの通信環境を確認しておいた方が良いでしょう。
確認が必要なこと
・相手方の映像や音声を取引士側の端末等で確認できること
・取引士側の映像や音声を説明の相手方の端末で確認できること
・説明の相手方に事前に送付している重要事項説明書等が、説明の相手方の手元にあること
先日のIT環境に則っているかや、通信テストなどを試して確認を行います。
電子書面が改変されていないか確認方法、保存の必要性、保存方法の説明
以下の説明を行い、相手から承諾を得る必要があります。
- 提供する電子書面の改変を、どのような方法で確認することができるのか
- その方法が提供時点から将来のある時点において、改変されていないかの確認のために必要な方法であること
ITを活用した重要事項説明

事前準備が整えば本番です。
ここで必ず必要なことは下記の2点です。
重要事項説明書は、宅建業法という法律で、宅地建物取引士しか行ってはならない、とされています。
そのため、取引士ではないものが説明をしないためにも、証明である取引士証を確認する必要があるのです。
具体的には、以下のような流れで確認をしてもらいます。
まずは、私の取引士証をカメラにかざします。写真と私の顔が同じ人物の確認をお願いできますか?
確認しました。
取引士証に書いてある私の氏名と登録番号を読み上げてください。
名前はおともくん。番号は●●●●●●です。
(内容が正しければ)それでは最後に、取引士証を確認した旨を声に出してお伝えください。
はい、確認しました。
ありがとうございました。それでは重要事項説明を開始させていただきます。
重要事項説明
取引士証の確認が終われば、重要事項説明の実施(説明・質疑)へと移ります。
直接目の前に相手がいるわけではないため、様々な工夫が必要です。ここでは一例をご紹介します。
IT重説実施中に環境に不具合等が生じた場合には適宜中断し、適切な対応を行うこと、とされています。
IT重説を売買で行うメリット
IT重説を行うことで生じるメリットには様々なものがあります。
遠隔地でも移動なし、費用なしで可能
従来の重要事項説明では、直接対面で説明を受ける必要がありました。
すると、普段東京に住んでいながら大阪で取引をする時に、飛行機や新幹線を利用することで交通費もかさみます。
また、不動産会社が遠方にある場合は移動のコストも決して低いものではありません。
このような場合に、IT重説を利用することで、交通手段や時間を気にすることなく、説明を受けることができます。
日程調整がしやすい
重要事項説明は、長時間の説明となります。そのため、仕事が忙しい方や、日中に時間が取れない方と日程を調整するのは至難の技です。
ましてや、店舗に来店していただいて説明をする、となると伸び伸びになってしまいかねません。
そこで、IT重説を用いて日程調整を比較的柔軟に、調整しやすくなることが期待されます。

合わせられる時間の幅が広がりそうですね。
リラックスして説明が受けられる
不動産取引は、ほとんどの方が一生に1度か2度携わる程度のものでしょう。
不動産会社の雰囲気によっては、緊張される方もいらっしゃるのは当然です。
当日お店に来て、いきなり重要事項説明書を受けた、という方も少なくないでしょう。
そして、IT重説では事前に重要事項説明書を送付しなければならない、ことになっていますので、事前にゆっくりと説明書を読むことができます。
そして、自宅にいながらリラックスして、事前に読んで分からなかった点なども質問することが出来ます。
来店が難しくても、契約者本人に対して説明ができる
契約者の方が怪我や病気になったりなど、移動が困難な場合、これまでは代理の方が店舗に来店して重要事項説明を受けていました。
しかし、IT重説では外に出る必要もないので、本人に直接説明を伝えることが出来ます。
加えて、非対面・非接触のIT重説のスタイルは、感染のリスクがゼロとなるメリットもあります。

直接対面でないメリットは多いです。効率化のためにも積極的に取り入れていきたいと個人的には思います。
IT重説のデメリット
それでは、次はデメリットについてみていきます。
通信トラブル
社会実験の結果、9割がトラブルがなかったとされていましたが、残りの1割の「トラブルがあった」中身は通信トラブルによるものが大きいです。
「音声トラブルが発生した」(43.6%)
「画面が映らない」(32.6%)
「インターネットにつながらない」(18.6%)等
これらは、通信機器を準備したり接続環境を整えることで解決が可能なため、事前に確認をしておくなどの対策ができそうです。
内覧をしなくても契約できる
IT重説では現地に行かなくても契約ができます。
そこで問題となってくるのは行かなければ分からないこと。
ITでバーチャルな内覧が実現できたとしても、周辺の騒音や匂い、道の明るさなどは現地に行かなければわかりません。
もちろん説明の際に言えばいいこともあるかもしれませんが、思ったよりひどかった、となってはトラブルの元です。
ここは改めて内覧をしたり、懸念点を示す資料を用意したりなど、対策を講じる必要があるかもしれません。

不動産会社で環境を整えていても、お客さんによっては環境がそれぞれ。立場を第一に動いていく必要があるでしょう。
IT重説で宅建士に求められること
また、IT重説をより円滑にするために、社会実験ではアンケートが取られました。
社会実験のアンケートで宅建士には下記の点を求めたい、という結果が挙がっています。

半数は特にない、との回答でしたが、以下のような意見も多かったようです。
- 説明や資料の工夫
- 機器等に関する知識を持ってほしい
- しぐさや表情を把握してほしい
- カメラを向いて話しかけてほしい、等

目の前にいない分、より丁寧に、相手への心遣いをすることが求めますね。
売買IT重説の今後の課題と注意点
上記ではIT重説の概要を説明しました。
本格運用が始まった4月以降、現場で浸透していくのでしょうか?
私的には、変化に貪欲に取り組んでいくべきだと思っています。
ただ、ここは企業のペースに合わせて、積極的に取り組む企業には浸透し、取り組まない企業には浸透する時間がかかるでしょう(当たり前ですが)。
既存の不動産取引現場では、ITに慣れていない(使いたがらない)プレイヤーが多いためです。
加えて、まだこの制度には障壁があります。
書類だけ紙、説明だけWEB、となるとお互い使い勝手が良くない部分もあると思います。
なので、個人的にはここの電子化が統合された時点で一気に進むのではないか、と思っています。

令和4年、5月18日から電子書面が可能になりました!

まとめ
私は、IT重説が果たす重要な点は、時代に合わせた多様な提案ができることだと考えています。
世の中には様々な立場の、様々な考えの方がいらっしゃいます。
・ご病気で家から動けない人
・売主さん、買主さんがご高齢でITツールをお持ちでない場合
・紙で契約をしたい、という方もいらっしゃる点
・直接現地で確認をしたい方
など
様々な立場や考え方に合わせることができる、それがIT重説の本質ではないかと思います。
これまで非対面でできなかったことができると、より不動産の世界も取引が円滑に、便利になる世界を目指して、OTOMOでも情報発信を続けて参ります。
