空家問題がよくわからない。どのように法改正されたのか知りたい。
そんなお悩みをお持ちのあなたに、2024年の空家の現状や課題、法改正についてわかりやすく解説する試みです。
本記事では、3つのポイントに絞って解説します。
なお、本解説では国土交通省の資料に沿って解説していきます。
資料を引用する形で進めていますので、流し見でも気になるデータがあれば、実務の参考に使っていただけると幸いです。
出典:国土交通省
空家政策の現状と課題及び検討の方向性
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001518774.pdf
不動産業における空家対策の推進に向けた取組についてhttps://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001710695.pdf
※本記事においては「あきや」は法律の表記に合わせて「空家」とします。一部資料と異なるところもあります。
目次
そもそも空家問題とは?現状についてざっくり把握
2024年に入り、ニュースなどで空家問題について目にする機会も増えてきました。
細かい定義は後ほど述べますが、まずはイメージを。
総務省の調査によれば空家数はこの30年で右肩上がりになっています。
加えて、ほぼ確実な推計と言われている人口統計においては、2008年が人口ピークであり、下降の一方を辿っています。
どのように空家になるのか?国土交通省の調査では、取得経緯が相続が最も多いことがわかっています。
実際の現場でも、相続したケースが多いです。
また、住宅ストック数も総世帯数より多く、量的には充足しており、住宅不足から住宅余りの時代に突入しています。
なお、令和5年12月時点における持ち家の新設住宅着工戸数は25ヶ月連続で減少しており、今後もこの傾向は続くことでしょうい。
各地で空家が増えていることが社会問題となっており、法律の整備やさまざまな地域での活動が進められています。
空家問題について、さらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご参考ください。
今さらきけない空き家問題をわかりやすく解説!原因や解決策、起きるトラブル例も次章からは、空家に関する法律と直近で行われた法改正について解説していきます。
空家等対策特別措置法ってなに?
空家対策特別措置法(空家等対策の推進に関する特別措置法)は2015年5月に全面施行された法律です。
まずは法律の目的を見てみましょう。
第一条
この法律は、
空家等対策の推進に関する特別措置法適切な管理が行われていない空家等が 防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、地域住民の生命、身体又は財産を保護する とともに、その生活環境の保全を図り、あわせて空家等の活用を促進する ため、空家等に関する施策に関し、国による基本指針の策定、市町村(特別区を含む。第十条第二項を除き、以下同じ。)による空家等対策計画の作成その他の空家等に関する施策を推進するために必要な事項を定めることにより、空家等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって公共の福祉の増進と地域の振興に寄与することを目的とする。
適切に管理されていない空家等が、生活に大きな影響を及ぼしていることが背景となっています。
では「空家」とはなんでしょうか?
第二条 この法律において
空家等対策の推進に関する特別措置法「空家等」 とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。第十四条第二項において同じ。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。
2 この法律において「特定空家等」 とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。
なんとなくわかるようなわからないような、、という印象ですが、近隣にも大きな影響を与える存在となり、デメリットが存在することが社会問題になっています。
空家対策特別措置法改正の背景とは?
前章で述べた法律は、空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律が令和5年12月13日に施行され、所有者責務が強化されました。
この背景には、以下の2点があります。
- 使用目的のない空家は、この20年で約1.9倍に増加。今後も増加見込み
- 以前の法(H26年制定)では特定空家への対応を中心に制度的措置を定めているが
対応に限界 がある
それぞれの背景と、空家問題の現状を見ていきましょう。
使用目的のない空家の増加について
空家の総戸数は849万戸あるとニュースでもよく流れますが、ここでいう空家とは何を指すのでしょうか?
先程は法律に定義された空家でしたが、総務省の住宅・土地統計調査では、以下のように定義されています。
①二次的住宅(別荘及びその他)38万戸(4.5%)
②賃貸用または売却用の住宅462万戸(54.5%)
③その他の住宅 349万戸(41.1%)
一戸建(木造) 240万戸(28.3%)
一戸建(非木造) 12万戸(1.4%)
長屋建 17万戸(1.9%)
共同住宅(木造) 12万戸(1.4%)
共同住宅(非木造)66万戸(7.8%)
大半が賃貸用・売却用の住宅で、このうちの「その他の住宅」が「使用目的のない空家」ということになります。よくイメージする一戸建ての空家は全体の28.3%なのです。
つまり、「その他の住宅=使用目的のない空家」が約1.9倍増えているということですね。
特定空家で限界が出ている点について
元の法律では、特定空家への対応を中心に制度的措置を定めていました。
もう一度特定空家の定義を見てみましょう。
第二条
空家等対策の推進に関する特別措置法
2 この法律において「特定空家等」 とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。
このまま放置すると危ない空家です。
この特定空家に指定され、自治体から改善の勧告を受けると、住宅用地の特例措置が解除され固定資産税の優遇のメリットがなくなってしまいます。
しかし、この特定空家になってからの対応には限界(なる前に対策を講じる必要がある!)がありました。
そこで、今回の法改正では、特定空家化することを未然に防ぐために管理不全空家(図右)という枠組みが設けられました。こちらは後述します。
空家対策特別措置法改正3つのポイントと方向性について
この法律が改正されたことで、どのような影響があるのでしょうか?
以下の3つのポイントに沿って解説します。
- 活用拡大
- 管理の確保
- 特定空家の除却等
活用拡大
まずは活用拡大の側面から。
「空家等活用促進区域」を創設し、用途変更や建替えを促進するというものです。中心市街地、地域再生拠点、観光振興を図る区域等です。
例えば、以下のような円滑化や合理化が図られます。
接道規制の合理化 | 前面に接する道が幅員4m未満でも、安全確保等を前提に、建替え、改築等を特例認定 |
用途規制の合理化 | 各用途地域で制限された用途でも、指針に定めた用途への変更を特別許可 |
市街化調整区域内の空家の用途変更 | 用途変更許可の際、指針に沿った空家活用が進むよう知事が配慮 |
また、空家等管理活用支援法人が創設され、NPO法人・社団法人等を市区町村が指定できるようになりました。
管理の確保
前章でも述べましたが、特定空家を防ぐために管理不全空家という枠組みが設けられました。
この管理不全空家に対して市区町村が指導・勧告できるようになりました。
管理不全空家とは、放置すれば特定空家になる空家。管理指針に則した措置を、市町村長から指導・勧告できるように。また、勧告を受けた管理不全空家は
特定空家の除却等
また、緊急代執行(だいしっこう)制度が創設されました。
通常の代執行は、本来所有者が解体すべき空家を、行政が適切な手続きを踏んで、強制的に必要な対策をとるというものです。例えば解体であれば、行政が解体し費用は直接の所有者に請求されます。
本来は命令等をし、相当の猶予を加えて代執行する流れでしたが、緊急時には不要となりました。これにより特定空家の除却等が促進される狙いです。
目標・効果
これらの効果により、以下の3つの目標を狙います。
- 空家等促進区域の指定数:施行後5年間で100区域
- 空家等管理活用支援法人の指定数:施行後5年間で120法人
- 市区町村の取組により管理や除却等された管理不全空家及び特定空家数:施行後5年間で15万物件
空家の流通・利活用に向けた課題と今後の方向性について
これまでは法改正の趣旨を述べてきましたが、今後はどのような取り組みがなされていくのでしょうか?
最後に空家に関する課題と、利活用に向けた取り組みを見ていきましょう。
空家の流通における課題
全国宅地建物取引業協会連合会が調査した、空家所有者へのアンケートがあります。
この調査によると、所有者の35.6%が放置・何も考えていないと回答し、不動産会社に利活用している数も5.6%と非常に少ないことがわかります。
▼図を拡大したもの
個人的には、不動産業のイメージが20代以外悪いが良いを上回っている、という点も気になります笑
また、全国の宅建業者は増えていますが、22都道府県では減少している点も課題として挙げられています。
地域において、
今後の方向性について
空家等の流通拡大に向けて目指す方向としては、所有者等へのアプローチ拡大・掘り起こし強化が大きな課題とされています。
所有者等の視点からは、以下の3つが望ましいとされています。
- 簡単にアクセスでき、ニーズに合う相談窓口が選択できること
- 適切なアドバイス・専門家の紹介が受けられること
- 空家の状況等に合わせた適切な活用方法が選択できること
これらのプロセスについても、ノウハウを有する不動産業や宅建士の活用、役割拡大が期待されます。
また、現状利用目的のない空家の多くが市場に出ておらず、活用されていない現状も述べました。
これらに対して官民で目指すべき方向性を共有して、一体的に取組を強化することが必要です。
そのために不動産業による空き家対策指針プログラム(仮称)を令和6年中頃に策定する予定とされています。
まとめ
以上、空家の現状や課題、これからの取り組みについて解説してみました。
空家が引き起こす課題もあるものの、その課題がビジネスチャンスにもなり得ます。
現状を踏まえながら、どのように解決していけるか、日々向き合っていきたいと思います。
空家問題についてはこちらの記事でも解説していますので、ぜひご参考ください。
今さらきけない空き家問題をわかりやすく解説!原因や解決策、起きるトラブル例も