住生活基本計画ってなに?
住生活基本計画(じゅうせいかつきほんけいかく)を簡単に説明すると、人々が豊かな住生活をおくるための計画です。
特に、昨今は新型コロナウイルス感染拡大に伴う時代の変化で、人々の生活の在り方も大きく変わっています。
人口減、少子高齢化や気候変動問題など、様々な問題を踏まえて、どのように安心して暮らせる社会を実現していくのか?が具体的に解説されています。
これらを知る事で、世の中の流れも把握できますし、大手会社が取り組んでいる具体的な目標指数にも触れられているので、事業のヒントに必ず役立つはずです。
政府や自治体が、5年ごとに見直しを行い、国民の住生活安定や向上のために定めます。日本の住宅政策の基本となる重要な計画で、直近では令和3年3月に新たに閣議決定されました。現状の計画では令和3年~令和12年の計画とされています。
計画は国土交通省のホームページから確認できます。
日本が目指すべき未来、そしてSDGsなども絡んでくる部分ですので、是非抑えるべきとおもいましたので、今回詳しく取り上げてみました。
目次
住生活基本計画の概要
そもそも住生活計画ってどんな計画?
この計画の骨子は、大きく3部で構成されています。
- 現状の課題
- 3つの視点
- 8つの目標
まずは、全体像を図にまとめてみました。
課題があり、それに対する3つの視点があり、それぞれ具体的な目標を立てている、という流れですね。
これらの概要に沿って、一つずつみていきたいと思います。
住生活基本計画の現状と6つの課題
まずは、現状大きな課題とされていることをみてみましょう。
上記の赤枠のところで、大きく6つあります。
まずは、今住宅産業で何が問題とされているかをざっくりつかみましょう。
世帯減少
子育て世帯数は減少。高齢者世帯数は増加しているが、今後は緩やかな増加となる見込み。生活保護世帯や住宅扶助世帯数も増加傾向。
気候変動問題
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)から「2050年前後に世界のCO2排出量が正味ゼロであることが必要」との報告が公表。「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現」を宣言し、対策が急務に。
住宅ストック
旧耐震基準や省エネルギー基準未達成の住宅ストックが多くを占めている。既存住宅流通は横ばいで推移。空き家が増加を続ける中で、周辺に悪影響を及ぼす管理不全の空き家も増えている。
これらは今新聞でも結構な頻度で見かけます。
そうですね。さらに以下の課題は、新型コロナウイルス感染拡大や世界の環境変化により重要性が増しています。
多様な住まい方、新しい住まい方
働き方改革やコロナ禍を契機として、新しいライフスタイルや多様な住まい方への関心が高まってきている。テレワーク等を活用した地方、郊外での居住、二地域居住など複数地域での住まいを実践する動きが本格化。
新技術の活用、DXの進展等
5Gの整備や社会経済のDXが進展し、新しいサービスの提供や技術開発が進んでいる。住宅分野においても、コロナ禍を契機として、遠隔・非接触の顧客対応やデジタル化等、DXが急速に進展している。
災害と住まい
近年、自然災害が頻発・激甚化。あらゆる関係者の協働による流域治水の推進等、防災・減災に向けた総合的な取組が進んでいる。住まいの選択にあたっては、災害時の安全性のほか、医療福祉施設等の整備や交通利便性等、周辺環境が重視されている。
土砂災害や水害など、近年災害のニュースを見かけることも増えてきましたね。
住生活基本計画の8つの目標
上記では、6つの課題を解説しましたが、これらをどのように解決していくのか?
先ほどの表をもう一度表示します。
大きく「3つの視点」という項目があります。上記の青文字のところですね。
- 社会環境の変化
- 気候変動問題
- 住宅ストック
これらはまさに世界中でも議論されている、重要な視点です。
これらの3つの視点に基づいて、8つの目標が定められているわけです。黄色の部分です。
- 新たな日常、DX推進
- 安全な住宅・住宅地形成
- 子供を産み育てやすい住まい
- 高齢者等が安心して暮らせるコミュニティ等
- セーフティネット機能の整備
- 住宅循環システムの構築
- 空家の管理・除却・利活用
- 住生活産業の発展
この計画のいいところは、それぞれの目標に対して成果目標が定められているところです。
具体的に官民は何を目指しているのか、を把握することが出来ますので、これらを一つずつ、見ていきたいと思います。
ボリュームが多いので、目標ごとにブロックを分けています。興味のある章を見て頂ければと思います。
私的には、目標6・7は最低限抑えておいた方が良いと思います。
視点1:社会環境の変化の視点
まずは、社会環境の変化の視点からです。
目標1:「新たな日常」やDX推進等に対応した新しい住まい方の実現
新たな生活観をかなえるため、居住の場を多様化していくこと。生活状況に応じて、柔軟に住まいを選択できるようにしていきましょう、という方針です。コワーキングスペース・リモートワークを推進していく、といえば具体的にイメージがわく方も多いのではないでしょうか。
以下のような施策が具体的に挙げられています。
- 住宅内テレワークスペースなどの確保
- 地域内のコワーキングスペース、サテライトオフィスの確保
- 職住一体、近接、在宅学習の整備
- 宅配ボックスや自動水栓の設置などによる環境整備
- 空家等の既存住宅を活用しつつ、意欲ある地方公共団体と協力関係を構築
- 情報提供やリフォーム整備を進め、地方、郊外、複数地域での居住を推進
- 長期優良住宅や持家の円滑な賃貸化
- 子育て世帯等が安心して居住できる賃貸住宅市場の整備を推進
また、新技術活用によるDX(デジタルトランスフォーメーション)化も欠かせません。
- 持家・借家を含め、住宅に関する情報収集から物件説明、交渉、契約に至るまでの契約取引プロセスのDXの推進
- 市場の透明性・信頼性の向上に向けた、住宅の取引価格等に関する情報提供の推進
- AI による設計支援や劣化診断の自動化等の住宅生産・管理プロセスの IT 化
- 住宅団地における自動運転、MaaS の実施等、住環境における DX の推進
また、これだけでは終わりません。
この目標には、成果指標が定められています。
DX推進計画を策定し、実行した大手事業者の割合
0%(R2)→ 100%(R7)
大手事業者で令和7年までに100%の導入率を目指す、ということです。国を挙げてのDX化が今後ますます加速することでしょう。
目標2:安全な住宅・住宅地形成
次に、安全な住宅地形成という目標です。
近年頻発する災害化対策のために、安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいを確保していくということです。
ここでも基本的な施策が挙げられているので見てみましょう。
- ハザードマップの整備、周知等による水災害リスク情報の空白地帯の解消
- 不動産取引時における災害リスク情報の提供
- 住宅の耐風性等の向上、住宅・市街地の耐震性の向上
- 災害時にも居住継続が可能な住宅・住宅地のレジリエンス機能の向上
- 今ある既存住宅ストックの活用を重視して応急的な住まいを速やかに確保
- 公営住宅等の一時提供や賃貸型応急住宅の円滑な提供
地域防災計画等に基づき、ハード・ソフト合わせて住まいの出水対策に取り組む市区町村の割合
ー(R2)→ 5割(R7)
すでに2020年には、不動産取引時に、水防法に基づく水害ハザードマップの説明義務が、重要事項説明として義務付けられました。
視点2:居住者・コミュニティの視点
次に、居住者・コミュニティの視点からです。
目標3:子どもを産み育てやすい住まいの実現
ここでは、子育てに適した環境をいかに整えていくかといった施策に焦点があてられています。
- 時間に追われる若年世帯・子育て世帯の都心居住ニーズもかなえる住宅取得の推進
- 駅近等の利便性重視の共働き、子育て世帯等に配慮し、住宅取得を推進。
- 子どもの人数、生活状況等に応じた柔軟な住替えの推進
- 防音、省エネ、防犯性、保育・教育施設や医療施設等へのアクセスに優れた賃貸住宅の整備
- 住宅団地での建替え等における子育て支援施設や公園・緑地等、コワーキングスペースの整備など
- 地域のまちづくり方針と調和したコンパクトシティの推進
- 建築協定や景観協定等を活用した良好な住環境や街なみ景観の形成等
家事の負担減につながるリフォームの促進、住宅内テレワークスペース等の確保も施策とされています。住居に求めるものもどんどん変化しそうです。
民間賃貸住宅のうち、一定の断熱性能を有し遮音対策が講じられた住宅の割合
約1割(H30)→ 2割(R12)
目標4:高齢者等が安心して暮らせるコミュニティ
また、高齢者、障がい者等が健康で安心して暮らせる住まいの確保や、支え合いで多世代が共生する持続可能で豊かなコミュニティの形成とまちづくりを行うための施策も挙げられています。
- 改修、住替え、バリアフリー情報の提供等、高齢期に備えた適切な住まい選びの総合的な相談体制の推進
- エレベーターの設置を含むバリアフリー性能やヒートショック対策等の観点を踏まえた良好な温熱環境を備えた住宅の整備、リフォームの促進
- 高齢者の健康管理や遠隔見守り等のためのIoT技術等を活用したサービスを広く一般に普及
- 住宅団地での建替え等における医療福祉施設、高齢者支援施設の整備
- 孤独・孤立対策にも資するコミュニティスペースの整備等、地域で高齢者世帯が暮らしやすい環境の整備
- 三世代同居や近居、身体・生活状況に応じた円滑な住替え等を推進
- 家族やひとの支え合いで高齢者が健康で暮らし、多様な世代がつながり交流する、ミクストコミュニティの形成
実際に孤独死も増えていますが、単にバリアフリーが充実していればよい、という話ではなく、コミュニティ機能も充実していなければ、本質的ではない、ということかもしれません。
なお、文中のミクストコミュニティとは、 高齢者や子育て世代など、いろんな世代をつなげるコミュニティのことを言います。
高齢者の居住する住宅のうち、一定のバリアフリー性能及び断熱性能を有する住宅の割合
17%(H30)→ 25%(R12)
目標5:セーフティネット機能の整備
住宅確保要配慮者の住まい確保と福祉政策と一体となった入居・生活支援が目標です。
例えば、低額所得者、高齢者、障がい者、外国人等などに向けた施策が打ち出されています。
目標4:高齢者等が安心して暮らせるコミュニティと重複する点も多いです。
- 改修、住替え、バリアフリー情報の提供等、高齢期に備えた適切な住まい選びの総合的な相談体制の推進
- エレベーターの設置を含むバリアフリー性能やヒートショック対策等の観点を踏まえた良好な温熱環境を備えた住宅の整備、リフォームの促進
- 高齢者の健康管理や遠隔見守り等のためのIoT技術等を活用したサービスを広く一般に普及
- 住宅団地での建替え等における医療福祉施設、高齢者支援施設の整備
- 孤独・孤立対策にも資するコミュニティスペースの整備等、地域で高齢者世帯が暮らしやすい環境の整備
- 三世代同居や近居、身体・生活状況に応じた円滑な住替え等を推進
- 家族やひとの支え合いで高齢者が健康で暮らし、多様な世代がつながり交流する、ミクストコミュニティの形成
居住支援協議会を設立した市区町村の人口カバー率
25%(R2)→ 50%(R12)
居住支援協議会ってなに?
視点3:住宅ストック・産業の視点
最後に、住宅ストック・産業の視点から定められた目標を見ていきましょう。
目標6:住宅循環システムの構築
住宅については、盛り込まれている内容も多く、重要なテーマであることが見て取れます。
ここでは、以下の3つが大きなテーマとして挙げられます。
- 既存住宅流通の活性化
- 老朽化マンションの再生等
- 世代を超えて引き継げる既存住宅ストック
不動産実務と最も近いところかもしれません。
更に具体的な事例をみてみましょう。
まさに、米国等と比較して日本は中古住宅流通が少ない分野。
ここで、以下のような整備がすすめられています。
- 基礎的な性能等が確保された既存住宅の情報整備
- 購入者に提示される仕組みの改善(安心R住宅、長期優良住宅)により、購入物件の安心感を高める
- これらの性能に加え、履歴等の整備された既存住宅等を重視して、既存住宅取得を推進
- 既存住宅の瑕疵保険の充実や紛争処理体制の拡充等により、購入後の安心感を高めるための環境整備を推進
安心R住宅ってよく聞くけど、Rってなんのことなんだろう・・・
「安心R住宅」とは、既存住宅を安心して買うための、国土交通省の告示による制度です。「R」は、Reuse(リユース)・Reform(リフォーム)・Renovation(リノベーション)の意味です。
築が古い物件の再生も大切です。
- 長期優良住宅の維持保全計画の実施など、住宅の計画的な点検・修繕及び履歴情報の保存を推進
- 耐震性、省エネルギー性能、バリアフリー性能等を向上させるリフォームや建替えによる、良好な温熱環境を備えた良質な住宅ストックへの更新
- マンションの適正管理や老朽化に関する基準の策定等により、マンション管理の適正化や長寿命化、再生の円滑化を推進
・既存住宅流通及びリフォームの市場規模
12兆円(H30)→ 14兆円(R12)
・住宅性能に関する情報が明示された住宅の既存住宅流通に占める割合
15%(R1)→ 50%(R12)
また、2050年カーボンニュートラル(脱炭素社会)の実現に向けた、住宅ストックを形成することも重要な取り組みです。
カーボンニュートラルは、まさに世界中で議論されている分野ですよね。
- 世代をこえて既存住宅として取引されうるストックの形成
- 長寿命でライフサイクルCO2排出量が少ない、長期優良住宅ストックやZEHストックを拡充
- LCCM住宅の評価と普及を推進
- 住宅の省エネルギー基準の義務づけ
- 省エネルギー性能表示に関する規制など更なる規制の強化
- 住宅、自動車におけるエネルギーの共有、融通を図るV2H(電気自動車から住宅に電力を供給するシステム)の普及を推進
- 炭素貯蔵効果の高い木造住宅等の普及や、CLT(直交集成板)等を活用した中高層住宅等の木造化等により、まちにおける炭素の貯蔵の促進
- 住宅事業者の省エネルギー性能向上に係る取組状況の情報を集約し、消費者等に分かりやすく公表する仕組みの構
LCCM住宅(ライフサイクルカーボンマイナス住宅)とは、長寿命で且つ一層のCO2削減を目標とした住宅です。住宅を建てたとき、住むとき、廃棄するまでの一生涯、つまり住宅のライフサイクルトータルでCO2の収支をマイナスにする住宅のことです。
・住宅ストックのエネルギー消費量の削減率(平成25年度比)※
3%(H30)→ 18%(R12)
・認定長期優良住宅のストック数
113万戸(R1)→ 約250万戸(R12)
目標を見直すとともに、住宅ストックにおける省エネルギー基準適合割合及び
ZEHの供給割合の目標を追加
目標7:空き家の管理・除却・利活用
空き家の適切な管理の促進と、周辺に悪影響を及ぼす空き家の除却を目標としています。立地と管理状況の良好な空き家については、多様な利活用の推進も掲げています。
空き家や空地をどのようにして活用していくか、という具体的な施策が挙げられています、
- 所有者等による適切な管理の促進
- 周辺の居住環境に悪影響を及ぼす管理不全空き家の除却等
- 地方公共団体と地域団体等が連携し、空き家の発生抑制や荒廃化の未然防止、除却等を推進
- 所有者不明空き家について、財産管理制度の活用等の取組を拡大
- 空き家、空き地バンクを活用しつつ、古民家等の空き家の改修・DIY等を進める
- セカンドハウスやシェア型住宅等、多様な二地域居住・多地域居住を推進
- 中心市街地等において、地方創生やコンパクトシティ施策等と一体となって、除却と合わせた敷地整序を推進
- ランドバンクを通じた空き家・空き地の一体的な活用・売却等による総合的な整備を推進
- 空き家の情報収集や調査研究活動、発信、教育・広報活動を通じて空き家対策を行う民間団体等の取組を支援
現状、空き家バンク制度は現場でなかなか浸透していないですが、今後さらに増える空家でどのように整備されていくかも要チェックです。
市区町村の取組により除却等がなされた管理不全空き家数
9万物件(H27.5~R2)→ 20万物件(R3~R12)
空き家問題については、別記事でも解説していますので、もしよければご参考ください。
今さらきけない空き家問題をわかりやすく解説!原因や解決策、起きるトラブル例も目標8:住生活産業の発展
最後に、地域経済を支える裾野の広い住生活産業の担い手の確保・育成です。
個人的には、一番興味深い分野です。若手の継承や住生活産業の海外展開は、私の世代で本腰を入れて施策を後押ししたい、と勝手ながら思っています(笑)
- 大工技能者等の担い手の確保・育成について、職業能力開発等とも連携して推進
- 地域材の利用や伝統的な建築技術の継承、和の住まいを推進
- 中期的に生産年齢人口が減少する中で、省力化施工、DX等を通じた生産性向上の推進
- (2)新技術の開発や新分野への進出等による生産性向上や海外展開の環境整備を通じた住生活産業の更なる成長
- AIによる設計支援やロボットを活用した施工の省力化等
- 住宅の設計・施工等に係る生産性や安全性の向上に資する新技術開発の促進
- 住宅の維持管理において、センサーやドローン等を活用した住宅の遠隔化検査等
- 官民一体となって我が国の住生活産業が海外展開しやすい環境の整備
まとめ
以上、住生活基本計画について解説してみました。
この計画は国土交通省のページでも確認することができます。
住宅についてのヒントなど、ご参考いただける部分があれば幸いです!
本記事も大ボリュームになってしまいましたが、以下の記事もさらなる大ボリュームで書いています(笑)
是非ご覧ください。
【業界の今後】国交省不動産業ビジョン2030をわかりやすく解説