不動産業界で注目度が高まりつつある「成年後見(せいねんこうけん)制度」。
その制度内容の詳細をご存知でしょうか?
成年後見制度とは、認知症などが原因で、その人個人の意思決定能力が低下している状態のときに、他の人がその判断を補うための仕組みです。
大別して、以下の2種類があります。
- 民法に基づく法定後見
- 任意後見契約に関する法律に基づく任意後見
これらは、全く役割が異なる制度にも関わらず、しばしば混同されてきました。
さらに、家族信託という制度も合わせて活用されるケースが多く、知識がないためにそれらの制度を敬遠している不動産会社さんは多いのではないでしょうか。
しかし、最近では、これらの制度を正しく知り、不動産業界のビジネスチャンスとして積極的に活用しようという動きが高まっています。
これからの不動産業界で働く人にとって、この知識を知らなければまずい、と言い換えてもいいかもしれません。
恥ずかしながら私もその一人でしたが、この情報は不動産業に携わる方であれば、必ず知っておいた方が良い知識だと思います。
今は言葉だけしか知らないという程度でも大丈夫ですので、是非読み進めてください!
あらためて成年後見制度とはどのような制度なのか?
不動産会社がこの制度の知識を身につけると、どのようなメリットがあるのか?
今回は、多数のメディアでも活躍中で、事例でわかる任意後見の実務などの著書も出版されている第一人者、司法書士の勝猛一先生に、わかりやすく噛み砕いたお話をしていただきました!
本日は、お忙しい中貴重なお時間ありがとうございます。よろしくお願いします!
よろしくお願いします。
勝司法書士法人 代表社員 勝 猛一 氏
1999年の創業から積極的に営業活動や情報発信を続け、2003年の司法書士法改正により可能になった法人登記の先駆けとして、東京にも事務所を展開。現在では、大阪・東京・横浜の3拠点を構え、商業・法人登記および成年後見制度のエキスパートとして精力的に活動をこなしている。年間50回以上の講演をこなし、テレ朝モーニングバードをふくめ各種メディアにも登壇。著書に「商業・法人登記300問」「経営者の認知症対策」「事例でわかる任意後見の実務」がある。
会社HP:勝司法書士法人
主なメディア展開:勝猛一YouTubeチャンネル/成年後見ブログ
目次
成年後見制度とは何なのか?任意後見や家族信託との違い
成年後見制度は、正直なところ私自身を含めて、よく分かっていない人が多いと思うのですが、まず制度の概要を教えて頂けますか?
わかりました。まずは、よく誤解されがちな法定後見・任意後見、そして家族信託について解説していきましょうか。
私の著書でもくわしくお伝えしていますが、不動産の方にとっては間違いなく押さえておくべき知識だと思いますよ
よろしくお願いいたします!(ついていけるか心配・・・)
法定後見と任意後見の違い
まずは、法定後見と任意後見、この大きな違いは何でしょうか?
法定後見と任意後見の大きな違いは、本人に判断能力があるかどうかです。詳しくは下記のYoutubeで詳しくお伝えしていますが、わかりやすくまとめていきますね。
任意後見は、認知症などの原因で自分の判断能力が落ちてしまったときのための“保険”として、あらかじめ誰に後見してもらうかを決めておくための契約制度です。
財産の管理や医療・介護の手続きなどをお願いする相手を、あらかじめ選んでおけるメリットがあります。
あらかじめ後見人を選んでおくと、具体的にはどんなメリットがあるのでしょうか?
たとえば、「自分が介護を受けるならこんな施設がいい」とか「財産の管理は子どもに任せたい」といった要望を通したい場合、判断能力のあるうちに任意後見を利用しておくのがベストです。
判断能力がなくなってからの法定後見では、後見人を選べませんし、自分の意向を伝えることもできなくなってしまいます
法定後見は、強制的に法定後見人が選ばれるのですね。。
もし私が被後見人の立場であれば、自分の親族に任せたいと思いますし、あらかじめ選べるというのは大きなメリットですね。
理想的な老後を送りたい人には、任意後見はぴったりの制度なんですね!
認知症などで判断能力が落ちた状態になってしまうと、選択肢は法定後見しか残されていません。
法定後見の場合は、家庭裁判所が後見人を決定します。
最高裁判所事務総局家庭局が発表している、成年後見関係事件の概況の最新版(令和2年度分)をまとめてみました。
すると、親族が成年後見人等に選任される割合は、約19.7%で、全体の2割を切ることがわかります。
件数が全体として増えているにも関わらず、親族が選ばれる数は年々下がっています。
加えて、司法書士が選任される割合が上がってきていることも見て取れるでしょう。
成年後見人 | 関係別件数(令和2年) | 割合 | 関係別件数(令和1年) | 前年比数 |
---|---|---|---|---|
親族 | 7,242 | 19.7% | 7,782 | -540 |
弁護士 | 7,731 | 21.0% | 7,768 | -37 |
司法書士 | 11,184 | 30.4% | 10,542 | 642 |
社会福祉士 | 5,437 | 14.8% | 5,134 | 303 |
市民後見人 | 311 | 0.8% | 296 | 15 |
その他 | 4,859 | 13.2% | 4,201 | 658 |
合計 | 36,764 | 100% | 35,723 | 1,041 |
特に財産のある人の場合は、弁護士か司法書士が選ばれるケースが大半です。
認知症の兆しが少しでも感じられた段階で、任意後見の制度を活用しておけば、ご本人はもちろん、家族にとってもよりよい財産の活用や老後の生活の管理ができます。
任意後見契約を結んだ後、認知症になった場合の対処
任意後見の契約を結んだ後、本人が認知症になった場合はどうなるのでしょうか?
その場合は、きちんと契約通りに様々な手続きを行っているかどうかをチェックする任意後見監督人という立場の人を立てる必要があります。
任意後見の契約をした人が、裁判所に監督人の選任の申立を行うと、正式に任意後見の制度が効力を発揮し、契約した人が後見人として財産管理などを行うことができます。
この後見人は、“任意後見を結んだ人なら誰でもいい”というのがポイントです。
たとえばご本人が「家族には財産管理や自分の老後を任せたくない」と考えていた場合、任意後見契約をあらかじめ結んでいれば親族以外の人にも後見人を任せることができます。
これが法定後見だと、4親等までの親族しか申し立てができないと定められています。
以下に該当する方はぜひ早い段階から任意後見を活用すべきということですね。
- 4親等内の親族がいない人
- 4親等内の親族に頼りたくない人
- 本人や家族の意向で後見を任せたい相手が決まっている人
家族信託の役割
ちなみに、先ほど家族信託についてもふれておられましたが、そちらはまた別の制度なんですか?
家族信託は、成年後見とは役割が異なるんですよ。特に財産が多い方ほど利用すべき制度ですね。
家族信託(民事信託)とは、子どもに財産を預ける仕組みです。うまく活用すれば、贈与税の負担なく、子どもたちが財産を管理・処分できるようになります。
先述したとおり、任意後見を行った場合には必ず任意後見監督人をつけることになります。たとえば、後見人が家のリフォームを行う場合でも監督人に相談しながら進めることが多いと思いますが、任意後見監督人とのやりとりでトラブルが生じることがあります。
監督人からすれば、任意後見で使うお金をチェックして裁判所に報告するのは、義務とはいえ手間がかかるもの。お金を自由に使いたい後見人と報告の手間を減らしたい監督人の意向が噛み合わず、思ったようにお金が使えないという事例が多いのです。
こういった場合に、家族信託で財産の管理を分けておけば、任意後見監督人の監督の範囲からはずしてお金を自由に管理できるようになります。
特に、会社を継承したい経営者の方からはよくご相談をいただきます。くわしくは私の著書、もしくはYouTubeの解説をご覧頂ければと思います。
不動産業界のビジネスチャンスとしての成年後見制度活用
勝先生は、YouTubeで不動産業界における成年後見制度の活用も提案されていますよね。そのあたりもぜひくわしく教えて頂けませんか?
成年後見制度は、不動産会社にとってはチャンスそのものですよ。活用しない手はないですよね。
((特に気合を入れてお話を伺います!)
不動産会社が成年後見制度を活用するメリットといえば、士業に紹介することでいくらかの報酬をもらうという流れをイメージする人が多いかもしれません。
しかし、成年後見制度の最大のメリットは、任意後見契約の際に必ず作成される財産目録です。
確かに、ほとんどの不動産会社と司法書士の先生の関係といえば、登記をお願いして決済に立ち会って、という以上のことはあまりなされていないかもしれません。
たとえば、ビルやマンションを所有するご高齢のオーナーやその家族に対して、必要に応じて任意後見制度を提案するとどうでしょうか?
任意後見制度はまだまだ認知が低い制度ですが、ある程度の財産を所有している人にとっては家族信託と合わせてメリットが多い仕組みです。
そのような提案をしている不動産会社は少ないですね。
不動産会社からすれば、財産目録は宝の山そのものです。
その目録をもとに、所有している土地や建物の活用法や処分を提案すれば、お客様にとっても不動産会社にとっても大きな利を生みます。
お客様もお困りでどうしていいか分からなケースもよく聞きますし、とても喜ばれそうな提案です!
実際に大手の不動産会社はすでに成年後見制度の活用に目を向けていますよ。
日頃から地域に密着して活動されている中小企業の方こそ、士業をパートナーとして取り組んでいけば先行者利益が得られる好機だと思いますね
そうだったのですね。
日頃から売主様や不動産オーナー様と接する方こそ、特にアンテナを張っておくべきですね。
勝先生の著書のうち、特に任意後見についてわかりやすく事例で解説している「経営者の認知症対策」を顧客への提案材料として不動産会社が大量購入しているケースも実際にあるそうです。
成年後見制度の活用法なんて、これまで考えもしませんでしたが、こうしてお話を伺うとむしろ不動産会社がやらない理由はない!とすら思えますね。
私も早速書籍を購入させていただき、常に携帯しています!もしお困りの方がいらっしゃればそのままお渡しする予定です。
不動産会社自体が成年後見制度のエキスパートになる必要はありません。
概要さえ知っていれば、あとは専門家である士業と手を組めばいいだけなのです。
編集後記
今回は、成年後見の専門家である司法書士、勝猛一先生にお話を伺いました。
この取材当日、勝先生は東京帰りのお忙しい中にも関わらず、大変快く取材をお受けくださり改めて御礼申し上げます。
成年後見制度はなかなか専門知識がないと理解しづらい制度ですし、不動産の現場で後見人の方と会うことはあれど、制度自体は自分に関係がない、と思う人も多いのではないでしょうか。恥ずかしながら私もそうでした。
しかし、勝先生のYouTubeや著書の「経営者の認知症対策」を見ると、概要は十分に理解できます。
YouTubeでは不動産オーナーに対する具体的なオファーの声掛け事例まで紹介されているため、自分で説明できない方は、iPadやパソコンを活用して、現地でそのままお客様に見ていただく、などの活用方法もあるようです。
専門用語をほとんど使わずに、事例をまとめている著書も合わせておすすめします。
勝先生の著書は、これからの不動産会社にとって必読書です!私も購入したので、じっくり勉強させて頂きます。
情報量盛りだくさんの非常に濃いお話を2時間も語ってくださった勝先生に改めて御礼申し上げます。
勝先生は、メディアでの活動や書籍等も含めた様々な発信活動を行なっておられます。
是非そちらもチェックしてみてください!
会社HP:勝司法書士法人
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