不動産AI査定って何?
今ある一括査定の仕組みとは何が違うの?
今後ますます「AI査定」というキーワードを目にする機会は増えていくはず。
個人や小さな不動産屋はどう戦えばいいのか、不動産業界はどうなっていくのか、持論を述べてみます。
この記事の結論は、AIに振り回される必要はないけれど、世の中の流れはどうやらそっちに向かっているので、トレンドに片足突っ込んでおきましょう、ということです。
何かしらヒントになれば嬉しいです。
目次
そもそもAIってなに?
AIの定義は発信者によって異なることを知っておくことは、結構大事と思いました。
皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
ターミネーターをイメージする人もいれば、ペッパーくん、勝手に動くパソコンなど人によって様々な捉え方があります。
総務省によると、日米間でもこれだけ人によって捉え方が違うというデータがありました。
▼人工知能(AI)のイメージ
新しい技術を掴む上では、どのような前提のもとに、その言葉が使われているのかは意識してみても良いかもしれません。
不動産テックやDXという言葉と似ていて、FAX→メールにすることをDXと言う人もいれば、国のDX戦略という大枠の話をする人もいるわけです。
AI査定の本段に入る前にiBuyer(アイバイヤー)という概念にも触れておきます。
不動産テックと世界で進む「iBuyer」
iBuyerとは、不動産売却ビジネスモデルの一つです。
AIのアルゴリズムで不動産価格を査定し売主から直接買い取るモデルです。
例えば、アメリカのZillowやOpendoorというProp techは、時価総額でそれぞれ1兆2千億円、5千7百億円と大変大きな規模に成長しています。
為替は8月時点だそうですが、GA technologiesさんが決算資料でまとめてくれています。
世界規模で見るととても大きな市場規模があるものの、日本ではまだまだ浸透していません。
後述しますが、日本では「すむたす」や「KAITRY」というサービスが有名です。
AI査定が広がることによって、今後日本でiBuyer市場が拡大しプレイヤーも増えていくことが予想されます。
切っても切り離せない関係性にあると考えています。
ちなみにアメリカではGAFAになぞらえて「ZORC」と呼ばれるそうですよ。
急拡大の裏側で、必ずしも明るいニュースばかりではありません。
コンパスやレッドフィンでは人員整理のニュースも出ていましたし、シンガポールの地場不動産テック起業プロプジー(Propzy)なんかも、先日事業停止のニュースがありました。
流行の裏に潜むリスクも追っていきたいです。
▼興味ある方はこちらのニュースからご覧ください。割と最近のニュースです。
不動産仲介のコンパスとレッドフィンが人員削減へ、米住宅市場減速で(Bloomberg)
不動産テックのプロプジー、事業停止か スタッフ5割解雇(VIET JO)
▼最近の日本関連の資金調達ニュースはこちら
▼不動産のOTOMOが直接インタビュー!iBuyer KAITRY とは?
iBuyerってなに?『KAITRY』運営会社のCTOに直接聞いてみた!日本における不動産AI査定の定義とは
と、いうことで前置きが長くなりましたが、この記事におけるAI査定の定義を以下とさせていただきます。
- 査定サービス(個人向け)
- 査定書作成サービス(法人向け)
私が調べる限りでは
・個人向けに、AI査定できますよ!
という訴求と
・不動産会社向けに、査定書作成が楽になりますよ!
というものが多いように見受けられました。
そのため上記2つにカテゴライズさせていただきました。
不動産AI査定サービス(個人向け)
まず、1番目からみていきます。
AI査定サービスはいろいろなものがあります。
売主のメリットとしては、直接連絡を取らずに査定価格を知れることがメリットでしょう。
従来は一括査定や不動産会社に直接依頼していたものを、AI査定に依頼するイメージですね。
実際、個人情報を入力しないと出せない情報がほとんどですが…
主要不動産会社運営のAI査定をまとめてみました。
スマホの場合は右にスクロールしてください。
サービス | 運営会社 | 査定根拠(協力会社) | 分類 |
---|---|---|---|
スピードAI査定 | 東急リバブル株式会社 | 独自※ | 実需 |
ステップAI査定 | 住友不動産販売株式会社 | 開示なし | 実需 |
リハウスAI査定 | 三井不動産リアルティ株式会社 | 独自+株式会社エクスウィザーズ※ | 実需 |
住まい1 | 三菱UFJ不動産販売株式会社 | SRE AI査定※ | 実需 |
近鉄のAI不動産査定 | 近鉄不動産株式会社 | SRE AI査定※ | 実需 |
クイックAI査定 | 明和地所株式会社 | Howma※ | 実需 |
RENOSY AI査定 | 株式会社GA technologies | 収益還元法※ | 投資用 |
VALUE AI | 株式会社コスモスイニシア | Gate. + 税理士監修 | 投資用 |
KAITRY | 株式会社property technologies | 独自+PriceHubble※ | 実需 |
SUMITAS | 株式会社SUMiTas | 独自+株式会社FIVES※ | 実需 |
すむたす買取 | 株式会社すむたす | 不明 | 実需 |
サービスの中身をピックアップして見てみましょう。
AI査定の流れ
例えば、東急リバブルさんを例に説明してみましょう。
まず、ユーザーはマンションか一戸建てか土地かを選びます。
査定できる種別は、不動産会社によって異なりますがある一定の流通量があるエリアでないと難しいでしょう。
具体的に言えば首都圏のマンションが最も適しているのでしょう。
そこから価格が出れば終わりですが、個人情報入力のステップへと移ります。
ここから先はご迷惑おかけするのでストップですが、名前を入力するところがありますね。
しかしメールや電話はないので、入力の障壁は減るでしょうか。
入力完了で査定価格がわかるようです。
マイページを作って、そこで定期的にメールが来るため、自分のマンションの売れ時や価格変動を教えてくれます。
転職のスカウトサービスに似てるのかもしれませんね。
ちなみにスミフさんは、もっと入力フォームが多く、メールアドレスの入力も必要です。
入力フォームをいかに簡素化するかも登録するかどうかは、消費者体験に大きく関わりそうです。
ちなみに余談ですが、私ECサイト運営していたことありまして、フォーム落ちというのですが、かなり細かくこの辺りは検証してたのを思い出しました…笑
大手不動産会社さんのWEBサイトとかをみてると、社内におけるWEBへの重要度とか力の入れ具合がなんとなーくわかるような気がします。
コスモスイニシアさんなんかは、投資家向けということもあり、パリッとしてます。
各社が全て自社開発しているわけではない
そして、これはあくまで顧客との接点を持つフロントですので、裏側のシステムは会社が違えど同じものが使われているケースがあります。
例えば以下の企業では、SREホールディングスが開発しているAI査定サービスを利用していると明記されています。
同じマンションを査定したら、同じ価格が出るということでしょうか?
いずれにせよ、初期接触段階で同じ価格が出ても、本格接触段階ではリアルの営業マンが売れる価格を直接伝えることになるでしょう。
今でも、査定価格にだいぶ幅がありますから、結局は営業の補正が必要なのです。
そうすると、あくまで接触、つまりAI査定は一つのチャネルとして(チラシやホームページと同様の集客の入り口)捉えておいても良いと思います。
詳細は不明ですが、大手は競合他社がやってるので、AI査定がない会社は選ばれる可能性が下がることになりますね。
ちなみに、SUMITASについては個人情報の入力(入力フォーム)が必要ありませんでした。
入力→査定価格確認→問い合わせ、という導線です。
ここでも、成約率に違いが出るのかどうか、気になります。
不動産AI査定書作成サービス(不動産会社向け)
次に査定書作成サービスです。
いわゆる開発会社の存在もみておきたいところです。
具体例を挙げるとこのようなサービスが、不動産会社に提供されています。
スマホの方は右にスクロールしてください。
ブランド名 | 運営会社 | AI査定ツール | 特徴 |
---|---|---|---|
Gate. | リーウェイズ株式会社 | Gate. Investment Planner | 2億件超の不動産ビッグデータと人工知能AIによる分析機能を搭載。 Gate. Market Surveyなどの市場分析ツールも充実。 |
SRE AI 査定CLOUD | SRE AI Partners株式会社 | SRE AI査定CLOUD | UFJ不動産販売や近鉄不動産が採用。様々なデータとソニーグループの技術を融合。SRE 査定APIもあり。 |
HOWMA | 株式会社コラビット | AI査定プラス | Howma(個人向け)AI査定プラス(法人向け)など多数サービスを展開。BrainやAI査定プロなどのツールもあり。 |
PriceHubble | 株式会社プライスハブルジャパン | Lead Generator | スイスの不動産テック企業。日欧9カ国展開。市場分析できるProperty Advisorもあり。WEBサイトはザ外資系。 |
ロボ査定 | マンションリサーチ株式会社 | ロボ査定 | 「マンションナビ」運営会社が開発。「売却査定」「査定書作成」機能あり。売買仲介業務に強み。 |
不動産会社がAI査定システムを導入するメリットは、膨大な反復作業を削減できることにあると考えています。
具体的には査定書作成です。
従来の査定書作成のプロセスとは
私が業界に入って大手仲介会社出身の営業の方から教わった方法です。
レインズで成約事例を集めて、土地代データをみて、営業マンの長年の勘でエクセルで価格補正する。
買取の場合は試算表を作る。
つまり社内の過去のデータを集めてきて、オープンデータを参考にして、エクセルで整えるという反復作業を何百回、何千回と繰り返しているわけです。
でもそれって、AIに任してしまえば良いのでは?という発想です。
例えばリーウェイズさんの展開するGate. Market Surveyというサービスは、物件の市場分析や相場が分かるものだそうです。
みてみると、国勢調査や経済センサスなどの公式データをもとに、独自収集した項目で不動産業務をサポートしてくれるというものです。
結局、手作業でできることをAIがやってくれるのであれば、これほど嬉しいことはありません。
加えて組織運営として考えた場合、ベテランでも新人でも同じデータが出せるのであれば営業効率は格段に上がるはず。
この辺りは、以前Twitterでも呟きましたが、KAITRYさんの記事が参考になると思います。
人しかできない「仕事」とAIに任せられる「作業」を切り分けていくことは、とっても大切なことだと思うのです。
AIが介在する価値というのは、これらの膨大な反復作業を効率化して透明化がすすむことではないでしょうか。
不動産は現地に行かないとわからないですし、瑕疵などは機械で判定できないので、やはり人のやる仕事はまだまだあります。
これも、将来どうなるか未来が楽しみであり怖くもあります。
査定書だけほしい売主と訪問したい不動産会社
これらの査定を使ってAI査定や不動産会社を通じて依頼しなければ価格は全くわからないのでしょうか?
プロの読者の方々には説明不要かもしれませんが、価格をざっくり知りたければ、自分で机上査定も可能です。
一般向けのシステムもたくさんあります。
- レインズマーケットインフォメーション(一般向け)
- 土地総合情報システム(国交省)
- 不動産ジャパン
- 全国地価マップ
ただ、一般的な認知度は高くありませんよね。
なぜこのようなものが存在するかというと流通市場の活性化のためのようです。
一例として、レインズマーケットインフォメーションの文章を引用させていただきます。
当サイトは、指定流通機構(REINS)が管理する具体的な不動産取引価格情報を提供し、不動産流通市場の一層の活性化を図ること目的として運営されています。
WEBサイト
そう、みなさん不動産市場の活性化を望んでいるのです。
そのために、一般の人がもっと気軽に使えるサービスはあったほうが透明化に貢献するはずです。
ただ実際、不動産の知識もなく、突如「売却」というよくわからない事態に巻き込まれてしまった売主にとって、これらのサービスを利用してみよう、とはならないでしょう。
見方も難しいですし。
路線価等を計算してなんとなく価格を調べてもよくわからないので、行き着く先はやはり不動産会社の実査定です。
AI査定の存在はお互いの溝を埋めるか
売れる価格の根拠として「不動産会社の価格査定書」が欲しい。
ただ、なんだか怖いから一括で良さそうな不動産会社に依頼したいな〜ということで
登場したのが一括査定サイトでした。
比較できて便利。
気軽に価格査定できて重宝されてきました。
しかし、売主は「価格を知りたいだけなのにたくさん電話がくる」ということを知ってしまいました。
ならばということで、次はAI査定です。
価格だけサクッと知りたいだけ。
そこから先は自分で決める。
何せYoutubeでプロが情報を発信してくれているのですから。
そして、この発信と受信をつなぐコンテンツを作ることこそやるべきことと考えています。
この文脈で言えばYoutubeですが、ブログやTwitterなどなんでもいいと思います。
効率化はAIに任せて、そのような役に立つコンテンツを作っていくのが良いもしれません。
今まで60分かけていた業務を10分にして、あいた50分でコンテンツの企画制作にあてたり発信したり。
そっちを研究する。
AIに限らず、時間や業務の効率化とはこの「将来の種まきに使える時間を増やすため」にあると私は思っています。
AI査定で売主の価格を知る時間は削減され、AI査定書作成サービスで不動産営業マンの時間効率は良くなります。
AI査定は不動産会社のはたらき方を変えるのか?
以上、AI査定について書いてみました。
ただこれまで述べた話は、あくまで各論のミクロの話です。
これからはAIは頭の良い人たちがどんどん開発して、冒頭で述べた巨大不動産テック企業(iBuyer市場)が形成されていくはずなので、準備しておきましょう、ということが大事なことかと思います。
世界の潮流はそっちに流れていて、その時代が来た時に乗り遅れないために、片足突っ込んでおきましょう、と。
淘汰されないために。
もう今や、商品はプロより消費者の方が詳しく調べている時代です。
バーチャル内見して、自分で営業担当を選んで、電子契約したいのです。
顧客が求めている役割や、不動産会社に求められることは刻一刻と変わっています。
私たちが提供するのは知識?それともどんな価値?
改めてAIとの向き合い方を考えていきたいと思いました。
引き続き不動産テックを研究していきます。
ご覧いただきありがとうございました。